LifeStyle

Dr.村中璃子のからだノート

2019/07/22

teame

夏でもご用心!

インフルエンザとフェイクニュース

 

2009年、新型インフルエンザが流行しました。毒性の高い未知のインフルエンザが出現し、感染を広げているとして、WHO(世界保健機構)はパンデミック(世界的流行)を宣言。各国政府はワクチンを緊急で承認し、日本政府もワクチンを緊急輸入しました。幸い、新型インフルエンザの毒性は発症当初に考えられていたほど高くはありませんでしたが、この時、インフルエンザに関して初めて分かったことがいくつかありました。

 

 

夏でも流行!インフルエンザワクチンは妊婦も胎児も守る

ひとつは、冬の病気と思われていたインフルエンザが、夏でも流行することです。日本で初めて新型インフルエンザの患者さんが報告されたのは5月9日。そこから夏にかけて流行と警戒が続きました。インフルエンザが疑われるような症状が少しでもある人に積極的に検査を行ったところ、これまで考えられていたよりもずっと多くの人が夏でもインフルエンザにかかっていたことが分かりました。
ふたつ目に、妊娠した女性に対するワクチンと、インフルエンザ治療薬タミフルの効果です。インフルエンザワクチンは、感染症が重症化しやすい妊婦にも推奨されているだけでなく、お腹の赤ちゃんにまで抗体が移行し、感染から守ることが知られているワクチンです。日本では、タミフルがおなかの赤ちゃんにほとんど悪い影響を与えないことが日本人のデータから知られていたこともあり、インフルエンザに罹った妊婦に対してもタミフルの投与が積極的に行われました。その結果、日本は新型インフルエンザによる「妊婦の死者ゼロ」を達成した、唯一に近い国となったのです。

 

 

「タミフルで、子どもが異常行動を起こす」は誤り

タミフルについては、「子どもが飲むと飛び降り自殺をする」というニュースを聞いたことがある人もいるかもしれません。しかし、これはフェイクニュースです。タミフルの問題が注目されたのは、新型のインフルエンザ流行の3年前、2006年頃のことですが、その頃インフルエンザの患者さんには、必ずといっていいほどタミフルが投与されていました。当時は、他にインフルエンザ治療薬がなかったからです。一方、小児科医のあいだでは、以前からインフルエンザで高熱を出した子どもが時おり異常行動を起こすことが知られており、飛び降りはタミフルではなく、熱によるものだろうというのが一致した見解でした。
しかし、一度広がった不安を拭い去るのは簡単なことではありません。当時まだ新しい薬だったタミフルに対し、「まだわかっていない危険性があるのではないか」という声は収まらず、2007年3月、厚生労働省はタミフルの添付文書に10代の患者へのタミフル投与を原則禁止とする一文を入れるよう命じています。
そして、タミフル騒動から11年もの月日が流れた2018年5月16日、厚生労働省の研究班は「タミフルによって異常行動が起きると結論付けられないと判断する」として、タミフルの添付文書から10代への使用を禁止する一文を削除するよう指導しました。今日ではタミフル以外にも複数のインフルエンザ治療薬があり、どの薬を投与された子にも、薬を投与されない子にも飛び降りなどの異常行動を起こすことがデータとして集まったからだそうです。

 

 

「危なくなかった」ニュースはなかなか広まらない

「危ない!」というニュースに比べると、「危なくなかった」というニュースは積極的に報じられません。たとえ報じられたとしても、耳には入ってきづらいものです。
そんな中、明らかに良い効果があるにもかかわらず、危険だという印象のある医薬品を使うか使わないかの判断を迫られたら、私たちはどうしたらいいのでしょうか。やみくもに拒否したり、必要以上に不安に思ったりするのはかえって危険なことも。まずは信頼できる専門家のアドバイスを仰ぐことで、自分や子どもを守るチャンスを失わないよう心がけたいものです。

 

村中 璃子さん

医師・ジャーナリスト。
京都大学医学研究科非常勤講師。
世界保健機構(WHO)を経て、メディアへの執筆を始める。
2017年、ジョン・マドックス賞受賞。著書『10万個の子宮』(平凡社)