LifeStyle

Dr.村中璃子のからだノート

2018/11/26

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お腹の赤ちゃんに贈るワクチン

 

 

大丈夫?妊娠中のワクチン

麻疹に風疹、おたふく風邪に百日咳。怖いイメージはないけれど、聞きなれた名前の病気があれこれ流行しています。 いま挙げた病気に共通するのは、ワクチンがあること。ワクチンは子どものものと思っている人がほとんどですが、海外では妊娠した女性に接種が推奨され、しかも無料というワクチンがあります。 母体から胎盤を通じてお腹の赤ちゃんに移行し、影響を与える可能性のあるものは色々とあります。お酒やたばこなど、悪い影響を与えるものばかり思い浮かべがちですが、感染症から私たちを守る「抗体(免疫)」もそのひとつ。実は、妊娠中にワクチンを接種すると、自分が抗体を持てるだけでなく、お腹の赤ちゃんに抗体をプレゼントすることができるんです。

 

 

「一石二鳥」の妊娠接種

効果の高い抗生物質や抗ウイルス薬のある現在、感染症の多くは健康な大人や子どもにとってはあまり怖くない病気です。しかし、乳児や妊娠中の女性は感染症にかかりやすいうえ、かかれば重症化するリスク大。そんな中、妊娠接種は、最も感染症に弱い妊婦と生まれて間もない赤ちゃんの両方を一度に守ってくれる一石二鳥のワクチン接種法です。 安全性と効果が確認されている妊娠接種ワクチンは2つあります。1つはインフルエンザワクチンです。新型インフルエンザが流行した2009年に自分や家族が妊娠していた人は、妊婦がワクチン接種を優先されたことを覚えているかもしれません。開発ほやほやのワクチンだったにもかかわらず、ワクチンを求めて多くの人が病院に殺到しました。インフルエンザの妊婦接種は、1979年に世界各地で流行した際、特に重症化しやすい妊婦を守るために始められたものでした。しかし、妊婦の重症化が低かっただけでなく、母親が妊娠中にワクチンを接種した赤ちゃんはそうでない赤ちゃんに比べて抗体の値が高く、発症しても重症度が低いというデータが出ました(ただし発症率は変わりませんでした)。 妊娠したら打ったほうがいいもうひとつのワクチンは、今年、首都圏を中心に流行している百日咳のワクチンです。百日咳のワクチンは、ジフテリア、破傷風、ポリオと一緒に定期接種の4種混合ワクチン(2012年まではポリオを除く3種混合)に含まれています。接種率は平成28年度で97%と高いのですが、抗体が5、6年で弱まるためWHOも就学前の子どもや妊婦への追加接種を推奨しています。赤ちゃんへの予防効果も期待して接種する場合には28~38週が効果的。百日咳の妊婦接種率が70%越のイギリスでは、生後3カ月までの乳児に対する妊婦接種の効果は91%との報告があります。 しかし、上の子の保育園や学校で百日咳が流行しているなど、妊娠した女性自身が感染するリスクが高い場合には28週を待たずに接種しても良いでしょう。

 

生ワクチンはNG

一方で、妊娠中に接種してはいけないワクチンもあるので注意が必要です。代表的なものは、麻疹・風疹を予防するMRワクチンや、おたふく風邪ワクチンです。これらのワクチンは、微量のウイルスを含む生ワクチンで、ウイルスが赤ちゃんに移行し、障害を起こす危険性があります。 妊娠中に接種したほうがいいインフルエンザや百日咳などの不活化ワクチンとは違って、生ワクチンを接種した時には、28日間は妊娠を避けるのが原則。すでに妊娠しているのにこれらの病気が流行している場合は、妊婦と接触する機会の多い家族や職場の同僚がワクチンを接種し、「免疫の盾」をつくって妊娠中の女性とお腹の赤ちゃんを守りましょう。お腹の赤ちゃんや妊娠した家族など「大切な人を守るためにワクチンを打つ」。素敵なアイデアですよね! 例年10月末には、その年の流行予測に合わせたインフルエンザワクチンが医療機関に届きます。抗体の量が十分な値まで上がってくるのは接種から3、4週間かかります。本格的な流行シーズンに入る前の早めの接種が望まれます。

村中璃子さん
医師・ジャーナリスト。京都大学医学研究科非常勤講師。世界保健機構(WHO)を経て、メディアへの執筆を始める。2017年、ジョン・マドックス賞受賞。著書「10万個の子宮」(平凡社)。